世界と日本の市場規模

リペアエコノミー(修理経済)は、製品を修理しながら長く使い続けることで新たな経済価値を生み出す考え方であり、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の中核をなす成長分野です。世界のサーキュラーエコノミー市場は2022年の3,339億ドルから年率約20%で成長を続け、2026年には7,127億ドル(約107兆円)に達すると予測されています。このうち修理・リファービッシュ(整備済み品)市場は2026年に2,622億ドル、リユース市場は3,341億ドルを占める見込みであり、リペアビジネスとリユースビジネスを合わせると市場全体の8割以上を構成する計算になります。

電子機器の修理市場に限定しても、2024年時点で1,426億ドルの規模があり、2030年までに2,189億ドルへ拡大すると見込まれています。スマートフォンやノートパソコンといったデジタル機器の高価格化が進むなかで、「修理して使い続ける」という選択肢の経済合理性が世界的に高まっていることが、この成長予測の背景にあります。

サーキュラーエコノミー関連市場の成長(世界)

CE市場全体(2022年)
3,339億ドル
CE市場全体(2026年予測)
7,127億ドル
うちリユース(2026年)
3,341億ドル
うち修理・リファービッシュ(2026年)
2,622億ドル

※各種業界調査の公表値をもとに編集部作成

日本国内に目を向けると、サーキュラーエコノミー関連市場は2030年に約80兆円、2050年には120兆円規模へ拡大するという政府関連の予測が示されています。リユース市場は2024年に3兆4,986億円と推計され、2025年には約3.5兆円を突破しました。環境省は2030年までに4兆6,000億円という目標を掲げており、修理ビジネスとリユースビジネスは国内でも明確な成長軌道に乗っていると言えます。

[PR]

台頭を支える4つの構造変化

リペアエコノミーがいま大きな注目を集めている背景には、単発の流行ではない構造的な変化が存在します。第一に、環境意識の高まりです。資源枯渇や廃棄物問題への危機感が世界的に共有され、製品寿命を延ばすことが温室効果ガス削減や資源循環に直結するという認識が、政策・企業・消費者の三者に浸透しました。

第二に、サステナブル消費へのシフトです。消費者の価値観が「所有」から「利用」へと変化し、環境や社会に配慮した製品・サービスを積極的に選ぶエシカル消費が広がっています。修理という行為そのものが、サステナブル消費を体現するライフスタイルとして肯定的に受け止められるようになりました。

第三に、「修理する権利(Right to Repair)」の法制化です。EUでは2024年に修理する権利指令が公布され、2026年7月末までに加盟各国で国内法整備が進められています。米国でも州レベルでの立法が拡大しており、メーカーが修理部品や修理マニュアルの提供を義務付けられる時代が到来しました。法制化の詳細は「修理する権利」の世界動向で詳しく解説しています。

第四に、経済的合理性です。世界的な物価高騰が続くなかで、新品を購入するよりも修理して使い続ける方が家計にも企業経営にも有利であるという実利的な判断が広がっています。この4つの構造変化が相互に作用し合うことで、リペアエコノミーは一過性のブームではなく長期トレンドとしての性格を強めています。

サステナブル消費と消費者意識の変化

リペアビジネスの需要側を支えているのは、消費者意識の質的な変化です。かつて中古品や修理品には「新品を買えない人のための選択肢」という否定的なイメージが伴いがちでした。しかしフリマアプリの普及により中古品売買が日常行動として定着し、リユース品への心理的抵抗感は大きく低下しています。とりわけ若年層では、ヴィンテージ品やリペア品を「一点物の価値」として積極的に評価する傾向が顕著です。

消費者調査でも変化は裏付けられています。物価上昇が続くなかで「壊れた製品を修理して使い続けたい」と答える層は年々増加傾向にあり、特にフリマアプリで売却する前提で製品の状態を良好に保つ「出口を意識した消費」が若年層に定着しました。購入時点で将来のリセールバリューを計算し、修理やメンテナンスをその投資と捉える感覚は、リユース市場とリペアビジネスをつなぐ行動様式として注目されています。また、企業のサステナビリティ開示が強化されるなかで、法人でも社用スマートフォンやオフィス家具を修理・整備して使い続けることをESG活動の一環として位置付ける動きが広がり、BtoBのリペア需要という新しい市場レイヤーが形成されつつあります。

また、修理履歴のある製品を「大切に使われてきた証」と捉える価値転換も進んでいます。衣類のダーニング(装飾的な繕い)や金継ぎのように、修理の痕跡をあえて見せるスタイルが支持を集めていることは、修理が単なる機能回復ではなく、文化的・審美的な付加価値を持ち始めたことを示しています。

企業側にとって重要なのは、こうした消費者が「修理しやすさ」を購買基準に組み込み始めている点です。フランスでは家電製品などに修理可能性指数(リペアラビリティ・インデックス)の表示が義務付けられており、修理しやすい製品設計そのものが競争力の源泉になるという流れは、今後日本市場にも波及すると見られています。

[PR]

「買い替え」から「長く使う」へ――ビジネスモデルの変遷

大量生産・大量消費の時代、製造業の収益モデルは「壊れたら買い替えてもらう」ことを前提に設計されていました。製品の修理対応はコストセンターと位置付けられ、修理部品の供給期間も限定的でした。しかしリペアエコノミーの台頭により、このモデルは根本から見直されつつあります。

変化の方向性は大きく3つあります。1つ目は、修理サービス自体の収益事業化です。メーカーが公式修理プログラムを拡充し、正規部品の販売やセルフリペア支援を新たな収益源とする動きが広がっています。2つ目は、修理を前提とした製品設計(デザイン・フォー・リペア)です。分解しやすいモジュール構造や標準化された部品の採用は、法規制対応であると同時にブランド価値向上の手段にもなっています。3つ目は、製品を販売せずサービスとして提供するPaaS(Product as a Service)モデルです。メーカー自身が保守・修理の主体となるため、長寿命設計と修理体制の整備が収益性に直結します。

収益構造の面でも、修理は魅力的な事業特性を持っています。修理サービスは在庫リスクが小さく、需要が景気変動に対して底堅いことが特徴です。好況期には高価格帯製品の予防的メンテナンス需要が伸び、不況期には買い替えを控えた修理需要が増える――この逆相関の関係により、リペアビジネスは経済環境を問わず一定の需要を確保しやすいのです。加えて、一度修理を依頼した顧客は同じ事業者にリピートする傾向が強く、顧客生涯価値の観点でも優れたストック型ビジネスと評価されています。

独立系のリペアビジネスにとっても、この変化は追い風です。修理部品・工具・マニュアルへのアクセスが法的に保障されることで、これまでメーカーが独占していた修理市場に参入する余地が広がり、修理専門チェーンや地域密着型の修理工房が事業を拡大しやすい環境が整いつつあります。

主要プレーヤーと業界団体

リペアエコノミーを牽引するプレーヤーは多層的です。国際的には、電子機器の修理マニュアルや分解レポートを無償公開する米国発のリペアコミュニティ「iFixit」が象徴的な存在であり、「誰でも自分の持ち物を修理できるべきだ」という理念のもと、修理する権利運動を世界的にリードしてきました。米国の「The Digital Right to Repair Coalition」や欧州の関連団体も、法制化を推進する重要なアクターです。

日本国内では、2026年7月に衣類・靴・鞄などの修理・お直し産業の業界横断団体「一般社団法人日本サステナブルリペア協会(JSRA)」が設立され、小規模事業者が多く産業として認知されにくかったリペア業界の共通基盤づくりが始まりました。またサーキュラーエコノミー全体では、一般社団法人サーキュラーエコノミー推進機構、ジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(J-CEP)、一般社団法人資源循環推進協議会など、企業・行政・大学が連携する推進団体が活動しています。

行政の動きも見逃せません。環境省はリユース市場の拡大目標を掲げ、自治体レベルでも修理店マップの作成、リユース・リペアイベントの開催、小型家電の回収と再生など、地域の資源循環を促す施策が広がっています。粗大ごみとして出された家具を修理して販売する自治体の取り組みは、廃棄物行政とリペアビジネスの接点として古くから存在しましたが、サーキュラーエコノミー政策の中で改めて位置付け直されています。

事業会社としては、靴・鞄修理の全国チェーン、スマートフォン修理の専門店ネットワーク、リユース大手による修理内製化、保険会社による修理費用補償サービスなど、異業種からの参入も含めて裾野が急速に広がっています。

[PR]

現況の総括――リペアエコノミーは「本流」になった

分野別に現況を俯瞰すると、リペアエコノミーの広がりの実像が見えてきます。スマートフォン・家電では独立系修理チェーンの多店舗化とAI診断の導入が進み、衣類・靴・鞄では駅ナカのお直し店から高級品専門工房まで業態の分化が進行しています。家具・住宅ではヴィンテージ家具再生や空き家再生といった「時間の価値」を扱うビジネスが台頭し、自動車では整備記録が中古車価格を支える成熟した修理経済圏がすでに確立しています。共通するのは、修理が「壊れた時の仕方ない出費」から「価値を守り育てる積極的な選択」へと意味を変えつつあることです。

また、修理と保険・保証の結び付きも強まっています。スマートフォンの画面割れ補償、家電の延長保証、住宅設備の修理サポートといった商品は、故障リスクを平準化することで修理サービスの利用を後押ししており、保険・金融業界にとってもリペアエコノミーは新しい商品開発のフロンティアとなっています。

市場規模の拡大、法制度の整備、消費者意識の変化、業界団体の組織化という4つの側面を重ね合わせると、リペアエコノミーはもはやニッチな環境運動ではなく、経済の本流に組み込まれつつあることが分かります。世界のサーキュラーエコノミー市場が100兆円を超える規模へ成長し、国内リユース市場が3.5兆円を突破したいま、修理ビジネスは「社会貢献」と「収益事業」を両立できる数少ない成長領域の一つです。

投資の視点から見ても、リペアエコノミーへの注目度は高まっています。サーキュラーエコノミー関連のスタートアップへの投資は世界的に拡大しており、整備済み品マーケットプレイス、修理マッチングプラットフォーム、AI査定・診断技術などの分野で大型の資金調達が相次ぎました。国内でもリユース大手の業績拡大が株式市場で評価され、「循環経済銘柄」というカテゴリーが定着しつつあります。

一方で、修理技術者の不足、料金と品質の標準化の遅れ、部品供給網の未整備といった課題も残されています。本サイトでは、スマホ・家電修理衣類・靴・鞄のリペア家具・住宅のリペアといった分野別の現況から、人材・資格将来展望まで、リペアエコノミーの全体像を分野横断で報告していきます。

業界応援パートナー募集

修理ビジネス・リユース関連の協力企業を募集しています

リペアエコノミー・レポートでは、修理・お直しサービス、リユース、修理部品・工具、延長保証領域の協力企業を募集しています。立ち上げ初期につき、先着3社限定でご案内中です。